黒水晶の家

八角形がつくる心地よい暮らし
2004年

斜面地に建つ3層の建築。半分地中にもぐった1階が伊藤寛アトリエ、上2層が伊藤自邸。起伏のある周囲の緑の中で、建築の佇まいを出来る限り美しいものにしようと、ここでは単純ではっきりとした八角形の外観とし、外側の輪郭には何も付加していない。玄関ポーチやベランダなどの外部空間が全て八角形の輪郭の中に納められている。

室内の外周部には1階から3階まで全てに渡り杉の細巾板を目透かしで張り、最上階の天井は屋根の傾斜なりに突き付けで張っている。家中どこからも幾何学的な家の輪郭を強く意識することができ、穿たれた開口部からは八方に開いた風景を楽しむことができる。

左:敷地周辺図。緑に囲まれた高台の傾斜地に位置しています。
右:夕方の建物外観。傾斜地に建つため、建物の半分は地中に埋まっています。1階事務所へは左下のアプローチデッキから、2階〜3階部分の住居へは右上のドアからそれぞれ出入りします。

1階事務所。半地下となっており、コンクリート壁が立ち上がった部分は地中に埋まっています。右側コンクリート壁の上部はロフト。窓の高さは、席に座った際に外の緑を眺められるように設計されています。

住居部分の玄関。階段を3段下りた左奥は2階部分。子供室や水廻りとなっています。右側階段を上ると、3階の居間やキッチンへと続きます。

          3階のキッチンとダイニング。天井に達する壁はなく、どこに居ても八角形の輪郭を見渡すことができます。

         右側の小上がりスペースは、居間となっています。床はサワラ、壁と天井は小幅の杉板張り。左奥は妻のアトリエ。

左:キッチン。家の輪郭に沿った造作。窓の外に目をやると、緑豊かな景色を見渡せます。奥は外物置やゴミ置場があるサービスヤードとなっています。
右:妻のアトリエ。壁で完全に仕切られていないため、居間にいる家族の気配を感じることができます。

                 2階にある息子の部屋。造作棚で緩やかに仕切られた奥は、娘の部屋。

用途伊藤自邸+アトリエ
竣工2004年
場所神奈川県 川崎市
完成時の居住者夫婦+子供2人
構造RC+木造3階建
延床面積121.21㎡
施工渡辺富工務店
受賞等2005年東京建築士会住宅建築賞受賞
日本建築家協会優秀建築選2005選出

住宅 新築

  • Pandaの家

    2023年

                                  &nbsp…

  • 下井草の家

    2023年

                                 

  • 成瀬の家

    2022年

                       

  • 黒水晶の家

    2004年

    斜面地に建つ3層の建築。半分地中にもぐった1階が伊藤寛アトリエ、上2層が伊藤自邸。起伏のある周囲の緑の中で、建築の佇まいを出来る限り美しいものにしようと、ここでは単純ではっきりとした八角形の外観とし、外側の輪郭には何も付加していない。玄関ポーチやベランダなどの外部空間が全て八角形の輪郭の中に納められている。

    室内の外周部には1階から3階まで全てに渡り杉の細巾板を目透かしで張り、最上階の天井は屋根の傾斜なりに突き付けで張っている。家中どこからも幾何学的な家の輪郭を強く意識することができ、穿たれた開口部からは八方に開いた風景を楽しむことができる。

  • 立川の家

    2007年

    膨大な書籍を納める書庫を計画している。また農を中心に据えた地に足の付いた暮らしをしたいという御希望で、野菜や果樹を作る庭から台所に直接入れる計画とし、バスルームやワークスペースもその延長線上に置いた。この家は4つの箱を少しずつずらしながら積み上げる構成をとっている。4つの箱には下から床下収納、バスルーム、台所、そして寝室が入る。この家の特色は、積み上げられた箱の隙間が家中つながる事。膨大な書物はこの隙間空間にオープンに収蔵され、そこは家族皆の図書コーナーにもなる。この箱を更に登ると、最後は「雨の降ってくるお部屋」と息子さんが命名したルーフテラスに到達する。

  • Piccolo Teatro

    2009年

     この家をPiccolo Teatroと名付けました。イタリア語で「小さな劇場」です。日常の中で起こるほんの些細な出来事や発見さえも、舞台に立つ役者の様な大げさな身振りで楽しもうとするイタリアの人たちと重なったのです。生きる事は繰り返す事だと行っても過言ではないかもしれません。家の中で毎日繰り返される実にたわいもない事は、10年、20年と蓄積される中で、気持ちのありようや家族の関係に知らず知らずのうちに大きな影響を及ぼします。
     この家の設計が始まったときご夫妻は結婚して間もない頃で子供さんはまだいらっしゃいませんでしたが、ここで子供を育てながら、生きる事を真正面から受け止め楽しめる家を創りたいと思いました。

  • 鎌倉の家

    2009年

    この家は背面を山に囲まれ、南は遠くの山並みを楽しめる鎌倉らしいロケーションにある。 夫婦+子供2人の4人が暮らす家。1階には寝室や洗面所などの個室が納まり、2階は船の甲板に出てきたようなオープンな一室空間となっている。2階はキッチン、ダイニング、書斎、将来区切って使える子供室があり、また、屋根をくりぬいたルーフテラス越しに背後の山や空を望む事が出来る。 2階はカネ勾配の三角屋根がそのまま室内の形になっている。外周部の室内側は壁と天井は全て漆喰が塗られ、光の陰影が美しい。外部は背後の山から覆いかぶさるように茂る樹木の影響を考慮し、屋根、外壁共に板金で包んだ。

  • 成城の家

    1998年

    南面道路からの視線を切りプライベートな庭を確保するため、住居と南側道路の間に板塀を設け、板塀にそって樹木が植えられた。それが今では樹木に囲まれた静かな庭となり、その庭に全面的に開いた大きなリビング空間が面している。 リビング空間を明るくして欲しいという要望が有り、前面に鉄骨で補強をし、壁を出来るだけ少なくする工夫をしているが、それが視覚的にも空間的にもこの家の特徴として現れている。
    キッチンは居間の奥に位置している。キッチンの収納は居間側からは目に入らないが、キッチン側からは扉を付けないオープンな収納となっている。料理の本などもここに並ぶ。
    1,2階とも構造、仕上げ材は杉が多く使われ、壁は粗い仕上げの珪藻土が塗られており、落ち着いた表情の空間に仕上がっている。

  • 土浦の家

    1999年

    持ち物は最低限、コンパクトで気持ちよく、生活時間帯の異なる2人が互いを視野に入れながら各自の領域を守れる空間。近くの大工さんによる施工。楽しめる庭。施工坪単価は50万円台でローコストだが、質の確保に腕利きの職人は外せない。要素をどこまで減らせるかが重要なテーマで、最終的には浴室を除き室内一切の建具がなくなった。
    この家には2種類の空間が用意された。1つは玄関を開けると最初に目に飛び込んでくるトレーラーのような一室空間。土を固めた焼かないタイルや漆喰の壁に包まれた多機能土間空間としての水回り。もう1つは、節のある檜や杉、そしてワラのたっぷり入った土壁に包まれた柔らかな雰囲気の居間や和室や寝室空間。

  • コンヴィヴィアルな家

    2009年

    壁も天井も漆喰で仕上げられた真っ白い空間の中央に、基礎から屋根まで達する木のやぐらが組上げられている。
    玄関を入るとすぐ目の前に現れるこのやぐらには、2つの床が仕組まれている。1つは基礎のレベルまで掘り下げられた、天井の低い空間。もう1つは1階と2階の中間レベルに設けられた『コンヴィヴィウム』と命名した空間。
    コンヴィヴィウムはラテン語で「共に生きる場所。共に楽しむ場所。」ここは家族皆の居場所になる。コンヴィヴィウムは1階のキッチン・ダイニングと2階の個室の中間のレベルに位置し、上下どこからも視線が通り、風や光も抜け、月の光も落ちる、木に包まれた場所。

  • 海と山と空の家

    2005年

    海と山を望む高台にあり3世代5人が暮らす。建主は色々な価値観を持った人が柔らかく共存できる家を望んだ。この家は八角形の筒と四角形の筒が入れ子状になっている。この2つの図形の間に生まれた環状のワンルームは家族皆の共通の場所で、1階はリビング・ダイニング、2階は寝室として使われている。ドーナツ状に連結するこの居住空間は全方位に対して開かれ各自好きな場所を選ぶことができる。1階は恵まれたパノラマを生かそうと連続窓としたため中央の四角が実質的な構造上のコアーとなり、それが視覚的に表現されている。
この四角形には、1階はキッチン2階は納戸、更に最上部はルーフテラスが置かれ、屋根を突き抜け全天空に開いている。

  • 樹肌の家

    2016年

    宮崎市に拠点を置くアイ・ホームからモデルハウスの設計の依頼を受けたものです。
    アイ・ホームは、高気密高断熱化により室内環境を快適にする家づくりにおいては実績のある建設会社です。設備環境的な更なる提案に加えて、宮崎の杉をふんだんに使った、デザイン的にも美しい家を今回作りたいと言う事で声を掛けていただきました。寺尾三上建築事務所の寺尾信子氏との共同作業による仕事です。ここでは住宅用壁掛けエアコンを1階階段下と2階小屋裏のチャンバー内にそれぞれ1台ずつ計2台設置し、極めて消費電力の小さいDC モーターファン6台で冷暖気を各所に送るシステムを採用しています。道路からは見えませんが屋根の上にはソーラーパネルも設置された、ゼロエネルギー住宅です。
    外観正面は軒高を1.5層分の高さにして正面からのボリュームを抑え、前面に杉を張りました。屋根を支える鉄の細い柱が並んだ外観は木の柔らかな肌合いや色と相まって清楚な印象になりました。外観はこの家での暮らしぶりを印象づける重要な部位です。廊下の先のドアを開けて個室に入る様な旧態依然たるプランニングでは無く、上下階や個室の区画を最小限にして家族の関係を最大限楽しめるような家を作ろうとした結果、最終的にこのような外観になりました。
    この家は上下の温度差が無いので、吹抜け空間や連続空間を作ることができます。それによって上下や横に視線が抜け、家族との一体感を楽しめる内部空間を実現出来ます。躯体の断熱気密性能が高いため、夏・冬はごく小さなエネルギーにより穏やかで快適な室内環境を楽しめる一方、春や秋には室内に風を通して外気の心地良さを感じられる様、屋根の頂部には開く天窓も用意されています。2階は屋根の形状を内側から眺められる一室空間。奥は夫婦寝室と書斎コーナー、手前の子供室コーナーはロフトに居るかのように天井高さをぐっと抑えた空間。春や秋には上部に空気を抜く事も出来る、開く天窓を2カ所に設けています。

  • 階段書庫の家

    2005年

    御主人の所蔵する多岐に渡る分野の本の置き場を、知の遊び場として家族皆が触れ合える楽しい場所にしたいと思った。道路の形状に合わせて折れ曲がる外壁と、室内の直交軸上の壁との間に生まれた不定形な空間が、狭くなり広くなりながら階段に沿って続く。この縦空間には書棚が組込まれ、小さな机も設けられた。家を貫くこの階段室は、1階のお母様の部屋から2階の寝室や浴室、そして3階のリビング・ダイニングまで、更には屋上も含め家族の居場所を繋ぐ立体空間として、この家の背骨のような役割を果たしている。

  • いわきの家

    2006年

    敷地全体に渡って外部空間を楽しめるよう平家建てとした。ここでは家をひとつの塊とせず、形や大きさの異なる4つの棟に分け、それを一列に連結した。4つの棟には車庫、寝室、水周り、居間・台所が納まる。 各々の棟は平面的には矩形だが、それぞれ屋根の向きを変えており、そのために家の中では変化のある空間を楽しむ事ができる。凹凸が多い平面計画は緑を奥の方まで引き込む事を可能にし、通風や採光の点で具合が良い。隣接する棟の屋根の高さや向きが違うので、屋根のズレた部分の天井附近には開口部を穿つ事ができる。そこからは空を、あるいは陽光を、あるいは月を楽しむ事ができる。 室内の仕上げは、杉、桧、漆喰が使われている。

  • 多摩川沿いの家

    2014年

    住宅地の中を抜け多摩川の堤防に出ると風景は一変する。光る水面と水音、富士山も望める遠くの山並み、視界の半分以上を占める広い空。都市の中にありながら地球を意識させてくれる大きな自然に面してこの建築はある。前面道路(堤防)は敷地より2m高いレベルにあり、車や自転車だけでなく散歩する人も多い。人のスケールを超えた風景と対峙し、南側にある堤防からの視線にさらされることへの解決として、ここではモルタル仕上げの構造壁で外周部を囲み、柔らかな質感のサワラ材を張った居住空間を内側に包み込む構成を取った。緑と一体となった佇まいを良しとして建築は1階建てとしたが、室内からも堤防越しに風景を眺められる場所を確保できるように南側の軒高は4.6mとした。ガラス窓を設けることから開放された外周部の構造壁が作る陰影が、水平に広がる多摩川の風景の中にあってメリハリの利いたファサードとして立ち表れる。外側の殻としての構造壁と内側の生活空間の仕切壁がレイヤー状に重なることで奥行き感のある空間を構成し、堤防からの視線をかわす。堤防に近い南側には屋根の架かった屋外空間、玄関や土間を配置し、その北側には光や風を確保するために光庭を設け、この庭を囲むかたちでダイニング・キッチンやフリースペースを連ねた。北側には寝室、洗面室、浴室、納戸等の個室を一列に配置し、低い屋根を架けている。光庭のある南側の1.5階分の高さがある1枚屋根の下の空間は、冬の午後の光を部屋の奥まで引き込み、室内からは南の空を臨むことを可能にする。外周部を墨入モルタルの壁で囲んだ内側には4寸角の木材を使ったフレームを組み込んでいる。このフレームは鉛直方向の荷重を受けると同時に、高さ1.82mレベルに架けられた横架材が、連続した空間の中にある土間やダイニング・キッチン、フリースペースの領域を柔らかく区分けしている。

  • 美しが丘の家

    2002年

    建築の内外を隔てる4つの面に開けられた 開口部、そして、そこから顔を出す1階デッキ、2階テラスがこの家の表情や光や風の道をつくり出している。また、2階天井のデザインも、この家の特色となった。屋根の形そのままに中央の高い天井が部屋をすっぽりと包み込む。各部屋の間仕切壁の高さを2.1mとし、天井面との間はスペースを確保した。細かく分節された各部屋の上部は天空からの光でエッジを際立たせた白いひとつながりの面が連続する。外周部の壁には土が塗られ、ワラや砂の混じった複雑な表情と深い色が光の微妙な変化を繊細に表現している。

  • 空気のシェルター

    2004年

    化学物質過敏症の夫妻のための家。身近なものが発する化学物質や生活による汚染を考え合わせ、空気の清浄度のレベルを段階に分けてゾーニングした。夫婦間の化学物質に対する許容度が異なったため、中間領域を挟んで両者の領域を分離した。また、化学物質が揮発しやすい高温多湿を避けるため、天井の高い片流れ空間をつくるなどして、自然換気ができる空気の設計を行った。そして内装材のほととんどは杉を使用。軒の深い縁側は広々とした印象をもたらし、化学物質を含んだものを自然の空気にさらして毒抜きする場にもなる。草木で彩られた庭は気分を和らげている。昔ながらの材料や工法による家づくりが、この家の設計のヒントになった。

  • 追分の山荘

    1991年

    敷地の凹みを利用し、すり鉢状の円弧を浅間山の裾野のなだらかな斜面にはめ込むことから、この家はスタートした。細長い建物の中に円弧の軌跡が入り込み弓形の居間となった。居間の前面には全開放できる引戸が計画され、対峙する居間と庭は完全に1つの円の中に納まる。円形の庭から眺める居間は、プロセニアムで切り取られた舞台のように見える。そのとき居間の正面にある、ピアノや暖炉、テレビや照明、更にキッチンや階段にからみながら湾曲する土の壁は、重要な舞台背景となる。左手から現れる主人公が右手の石のテーブルに腰掛ける場面から、このステージが始まる。

  • 高尾の家

    2016年

    敷地は旧甲州街道から50m程入った所に在る住宅地。南側は古くからある行き止まり道路、西側は近年出来た道路で、計2本が接道している。西側の道路からは建築がよく見え、南側の行き止まり道路からは風が通る。こうした敷地の特性を活かして、建築を1つのボリュームとせず東棟と西棟に1間離して配置する事にした。そうする事で2棟の間には光が落ち、風が通り、冬ここは日だまりの空間となる。西側道路に面するファサードはこの家を印象づけるもので、西棟の軒を低く押えたプロポーションとした。

    東棟1階の和室と西棟2階の2つの寝室に引戸が備えられているが、それ以外の居室に建具は無い。寝室以外は部屋の一部を通過して次の間に行くオープンなプランニングを基本としている。部屋同士にそのくらいの繋がりがある事が、家族間の顔が見える関係を作る上で良いと考える。この家はベランダも使えば吹抜けのホールの周りを一巡できる様計画されている。ダークな色調の和室、書斎、寝室などを通過しホールのブリッジに立つと、視線は白一色の吹抜け空間、外の光、そして空へと抜ける。

住宅 改修・増改築

  • 杉並の貸家

    2017年

    画家 近藤竜男さんのアトリエをスモールオフィス付き貸家にリノベーションしました。
    近藤竜男さんは、戦後のアメリカが世界のアートシーンの中心として最も輝いていた時期に、その中心にあったニューヨークに滞在し活躍した画家です。抽象表現主義やミニマルアートなどの最前線のアーチスト達とも広く交流し、また美術手帳などを通して最新のニューヨークアートシーンを日本に紹介した重要な人でもあります。近藤さんが渡米前に使い、近藤さんの不在中には画家 宇佐美圭二さんも使った杉並のアトリエを耐震補強を兼ねて改修したものです。
    改修前のアトリエは延床面積64m²、天井高さ3.5mあり、大きな開口部から光がふんだんに差し込む明るい一室空間でした。 耐震上の必要から開口部を一部壁にし、 内部にも間仕切を兼ねた耐震壁を最小限設け、高い天井を活かしたロフトや床下収納も設けています。
    かつてのアトリエの雰囲気を残した一室空間でありながら、変化に富んだ視点や居場所をつくりました。どこにベッドを置き、どこに食卓テーブルを置き、どこを仕事場にしてもOK、立体空間を最大限活かした様々な使い方が可能です。

  • OJONCO館

    2014年

     かつて宿場町として栄えた福島県いわき市上三坂地区に、もう一度にぎわいを取り戻そうと、2010年に「再生 上三坂ホロスケの里」と言うタイトルの冊子をまとめた事がご縁で、上三坂地区にあった築100年の土蔵の家を交流施設OJONCO館として蘇らせる仕事に、設計者として参加させていただく機会を頂きました。

     上三坂地区の中心にある中町の宿場で3代に渡ってお医者さんを営んだ旧石川医院を、いわき市出身の女性3人が中心になって立ち上げた社団法人が譲り受け、地元の人たちの記憶の中にあるこの建築を活かして、いわきと東京、地元の人たちの交流の場として役立てようと言うものです。

     しかし、築100年の家は土台が腐り床は波打っている状態でした。またこれまでの改修で壁を撤去してしまったために構造的な安定を大きく欠いおり、その辺の補強が急務でした。住宅故の細かな間仕切や畳の床も大人数が会する空間としては不向きで、その辺りの改修をしながら高度成長時代の新建材等も全て取払い、かつて在った力強い木組みを目に見えるように現し、漆喰壁を補修し、土蔵の空間の気持ち良さを楽しめる様にしました。

     施工は地元の矢吹工務店が引き受けてくれました。地元で木造の家をたくさん作って来た矢吹棟梁と、関東からやって来た建築家は木材の太さに関する美学の違いは多少在ったとしても木を愛する気持ちは共通で、掛け合い漫才のようにお互いを尊重し知恵を出し合い、1つ1つの問題をクリアーして行きました。

     1階は42帖の広さの何にでも使える一室空間が出現しました。床は軟らかくて暖かい杉の厚板を一面に張りました。歩いたり座ったりした時の気持ち良さは格別です。

公共建築

  • 横浜市北八朔自治会館

    2022年
  • 大豆戸町内会館

    2018年

    大豆戸町内会は横浜市の中でも世帯数が多く、少人数から大人数まで様々な集会に対応できることが求められました。1階・2階には大小の会議室、3階にはダンスなども楽しめる多目的室を計画することで、多様なニーズに応えるプランとしています。子供から高齢者まで安心して利用できるよう、道路からポーチまでのアプローチはスロープとし、バリアフリーに配慮しています。アプローチ部分にはスロープに沿って花壇を設け、来館者だけでなく近隣住民も季節の花を楽しむことができるようにしました。また、外壁は桜色の左官仕上げとし、深みのある柔らかい表情に仕上げました。スロープに沿った壁には、サワラ板を張り、来館者を温かく出迎えてくれるような佇まいをイメージしています。来館者、近隣住民、子供から高齢者まで誰にとっても永く愛される会館を目指しました。

  • 逗子市第一運動公園再整備

    2014年

    老朽化した運動公園の再整備工事として5.5haの公園のリニューアル、3つの屋外プールの新設、2550㎡の体験学習施設の新設をしました。
    公園全体のランドに起伏を持たせ(掘った土を利用)、移動する毎に風景が少しずつ変わる、その変化を楽しめる公園にしました。また建築の屋根にも起伏をもたせ、建築、ランドスケープが一体になって新たな公園の風景を作っています。体験学習施設は平屋建てとし、接地面積が一番多くなる計画としました。公園の環境を最大限活かし、建築が出来たことでこれまであった魅力が更に増す様な計画を心がけました。建築はたくさんの外部空間(軒下空間)を持っています。東西に長い屋根が掛かりますが、建築は6棟に分散して配置し、公園の南北方向の人や風や視線を遮らない計画としました。6つの棟をつなぐ屋根の掛かった道が公園を東西に貫きます。我々はここを道広場と名づけています。移動空間でだけでなく、自由な遊びコーナーでもあります。この施設は公園を利用するあらゆる人が利用出来ますが、夕方から夜に掛けては中高生が無料で使える様、児童館として運用されています。夕方の公園は子ども達の自由な時間、自由な居場所として開放されています。

  • 森美術館

    1995年

    デザイナーのアトリエ兼プライベート美術館。山を背にして前方に川が流れ、周囲には田畑と農家が点在する素朴で生活感のある風景の中にこの建築はある。
「世界でもっとも美しい家」をつくって欲しいという依頼の言葉。アーチストの創作と思索の場をつくるために、風船を最大限膨らませたような、できるだけ大きな空間を用意した。

    空間の大きさ、形、そこに注ぐ光、素材。そうした基本的な部分を慎重に計画し、すぐ近くに住む大工と左官が、地域で入手しやすい材料を使って作った建築。伝統的な工法を使ってはいるが、しかしこの建築は決して過去に戻ろうとしているのではない。

  • 新沢睦会 町内会館

    2017年

    敷地は丘の上に広がる街に入る何本かの道の 1 本に面していて、坂道を上りながらふと頭を上げた時お迎えしてくれる重要な位置にあります。 大会議室の大きな開口部がこの道に面して開けられ、町内会館での活動を可視化できるようにしています。一方、小会議室は玄関ポー チ越しに差し込む光に満ちた天井の低い空間です。全く違う雰囲気の2つの部屋がこの建築に仕組まれています。 会議室 1 と会議室 2 を連続する一室空間として使う時、ロフト空間は桟敷席のようで、内部空間全てがあたかも劇場の様に立体的に繋がります。 室内だけでなく玄関ポーチや道路側の軒下空間も含め、子ども達が嬉々として走りまわる姿をイメージして設計をまとめました。

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